360度診断(評価基準)に潜む罠

Story.17

360度診断とは

人事評価時に行われる「360度診断」という評価基準をご存じでしょうしょうか?
この診断は、上司が一方的に評価するのではなく、普段の仕事に関わる同僚や部下からも広く意見を集め、より公正な評価をするための評価基準です。

昔は、日頃の言動や目標達成率を基準に上司が部下の評価をしていましたが、それでは一人の目で見た判断や上司の好き嫌いが大きく反映されてしまうため、「透明性のある評価制度」として注目を集め一時期多くの組織で360度診断が評価基準として取り入れられました。

理想論ではあるものの、なるべく公正であり公平であり、誰もが納得する評価をしようと試みる姿勢は大切だと思います。
理想であっても一歩を踏み出さなければ、今と何も変わらないわけですから…

しかし、本当に一時期大流行しましたが、現在は余り使われていません。

360度診断の課題

一見素晴らしい制度ですが、私はこの360度診断は世の中にある評価基準の中でも最高峰に難しい評価基準だと感じています。

まず、大前提として360度診断をするためには、今まで一部の役職者が担っていた評価をその組織に属する全員が行うということです。

例えば、100名が所属する組織で、評価者が5人だったとすると、その5人が評価基準をしっかり理解しておけばいいのです。
しかし、それでは公正にならないからと、360度診断が導入されたわけです。

ここに矛盾があります。

少なくとも管理職になるような職業経験が厚く、評価の研修を何度も受けているような5人ですら正しく評価できないのに、今まで評価したことが無い評価リテラシーの低い残りの95人がいきなり評価をするようになり、公正な評価ができるわけがないのです。

当時の人事や決裁権のある人たちは、この矛盾に気づかないまま、若しくは気づいても人事コンサルの口車に乗って制度の導入をしました。

360度診断を機能させようとすると、その組織に所属する全員が評価基準を正しく理解し評価できるようにならなければなりません。
これは、想像以上に時間と労力がかかるのです。
結果、一度だけ集合研修を行って、「あとは各自評価時にマニュアルを見てね」といった雑な導入になりがちです。

その結果、評価エラーを続出させることになったのです。

機能しなくなる人事評価

さらに、360度の最大の問題は、評価リテラシーの低い(皆無)の社員が上司を評価できてしまうことです。

次は、所属などぼやかしていますが、実際にあった事例です。

営業一課のA課長は、課に与えられたノルマを毎年クリアします。そのために自分を含め部下にも残業や休日出勤を指示することがあります。また、毎月面談を行いノルマが達成できない部下には、原因の洗い出しや対策案の提出を求め、改善が無いと厳しく叱責します。

営業二課のB課長は、課に与えられたノルマを毎年クリアしていません。部下の自主性に任せ「部下の責任は上司の責任だから、責任は僕が取るから自由にやってね、失敗しても一緒に頭を下げるよ」と言って、「成果」ではなく「頑張ったこと」を褒めます。

この事例を出しただけで、どんな問題が出ているかは続きを読まなくてもわかると思いますが…
会社のお荷物の部署はどちらでしょうか?
営業部長から評価が高いのはどちらでしょうか?

360度診断の結果が良いのはどちらでしょうか?

360度診断の特性上、部下からの評価と上司からの評価の重みは大きく変わりません(上司の評価の方が著しく重いのであれば、今までの評価制度と変わらないため)。

この結果、A課長の評価は下がり、B課長の評価は上がるという逆転現象が起きてしまうのです。

評価時に大切なのは、如何に「評価基準」のみで評価するかですが、評価リテラシーが低ければ低いほど360度診断の基準が「自分にとってどうか」という私見(私怨)が入り込んでしまいます。

その結果、例え同じ結果を出したとしても「優しい」とか「楽しい」とか「ポジティブ」とか、そういった要因を持ち合わせている人の方が評価として高くなります。
これは、前回の記事に記載している「怒らない上司が良い上司」という誤った思想や、公人としての立場と私人としての立場を分けて考えられない公私混同の考え方があるからです。
優しい上司が良い上司とは限らない


誰しも怒られたくはありませんし、それは当然の心理なのですが、それと評価は切り分けて考えなければなりません。
しかし実際は「事実」と「感情」を切り分けることは容易ではなく、結果360度診断に「感情」が入り込み、多くの組織で全く参考にならない評価基準となってしまったのです。

人事評価時の課題

評価制度に伴う評価課題は、組織の目標を達成するために「こういった言動や成果を期待する」という、とても大事な指標となります。
もし、期初に自分の評価課題を見て「簡単だな」と思ったら、それは「自分に課題が無い」「自分の能力が高いから簡単」なのではなく、組織から見て「あなたには期待していない」というサインですので気を付けてください。

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