朝礼で「企業理念」を唱和するのは古い体質なのか
就活生からすると、今時期毎朝「企業理念」を唱和するなんて古臭いと思うかもしれない。しかしよくよく考えて欲しい、企業を選ぶときに「企業理念」に共感できるかどうかを大事にはしなかっただろうか?「企業理念」には共感するのに、唱和は嫌だとは不思議なものだなと個人的には感じています。
- 恥ずかしいから?
- 馬鹿らしいから?
- 入社したら必要ないから?
「企業理念」は何のためにあるのか
資本主義の企業は、サービスを提供し、その見返りとして顧客から対価を頂戴することによって成り立っていることは誰でも知っていることではないでしょうか。では、顧客から頂戴する「対価」の本質とは何でしょうか……それは顧客の「ありがとう」の気持ちです。
顧客の困りごとを「解消」することにより、感謝されて「対価」が発生すると書くと少しわかり易くなるでしょうか。
当然、粗悪なサービスや顧客を騙すようなサービスを提供しても、その顧客は二度とそのサービスに「お金」を支払うことはないでしょう(健康器具など1月~2月の短時間で場所を借りて、シニア層を集めて売りぬいて、また別の場所に転居する悪徳業者が、まさに顧客を騙すサービスの代表例)。
つまり、「企業理念」とは「私たちは、どうやって「ありがとう」を頂戴するか」という、企業の方向性、社員に求める方向性となるものです。
※最近では「企業理念」ではなく「MVV(ミッション、ビジョン、バリュー)」で表記する企業も増えてきましたが本質は同じです。
物事には必ず「目的」があり、それを成すための「手段」がある
朝礼で「企業理念」を唱和することも何かしら「目的」があって、それを成すための「手段」として用意された筈です。例えば『日本のすべての家庭に質のいいお肉を安く提供する』という「企業理念」の会社があったとします。
この時、毎朝「企業理念」を確認することで、次のようなことを出社時に自分の中で整理することが、日常業務での「目的」になります。
- ひとりで顧客と対峙し「お肉を安くするために質を落とす交渉が持ち掛けられた」場合、自己判断の指針として会社の方針と同じ選択ができるかどうか
- 昨日の業務中に「企業理念に反した」言動はしていないか(お肉の購入者に顔向けできない仕事はしていないか)
- 今日の業務で顧客と対峙するときに「企業理念を念頭」に交渉ができるか(何を最優先にしなければならないか優先順位を間違えないか)
そして、当然ながら、「最終目的」は『日本のすべての家庭に質のいいお肉を安く提供する』ことに他なりません。
この『日本のすべての家庭に質のいいお肉を安く提供する』ことを成すための「手段」のひとつとして、朝礼で「企業理念」の唱和があるのです。
そのため、「目的」を達成できるのであれば「唱和」では無くてもいいのです。
しかし、残念ながら、本当に残念ながら、この「目的」を語れない人事や既存従業員が多くいます。
制度の「目的」を語れない人事のいる会社への入社は避けるべき
さて、これまでのLife Craft Worksの記事は、就活生に向けてのメッセージが大半を占めています。就活生に「こうあれ」と伝えるばかりではなく、今回は「会社」や「人事」について触れてみたいと思います。
私の相談者には人事の方もいますが、時折「うちの会社は、毎朝朝礼で企業理念を皆で言う古い体質の会社だから採用できないです」と相談される人事の方がいます。
※今回の記事の事例用に詳細は変えてあります。
それを聞いて「うん、まあ、それは面接したら行きたくないと思うよね」と私は思います。それは、面接する人事その人が「毎朝朝礼で企業理念を皆で言う古い体質の会社だから」と自社のことを思っているからです。
その気持ちは面接でも現れますし、応募者に「毎朝企業理念を皆で言うのですか?」と聞かれてもポジティブな返答など期待できません。
逆に、もし面接で「私はお会いしたことはありませんが、創業者は貧しい家庭に育ったため滅多にお肉を口にすることが無かったそうです。そのため起業するときに『日本のすべての家庭に質のいいお肉を安く提供する』ことを目的にしたことから、これが「企業理念」となりました。今の時代は「安い」を求めると安易に「質が落ちる」傾向があります。そのため、当社では普段の業務で安易な決断をしてしまわないか毎朝朝礼で「企業理念」を唱和し、自らの言動を振り返っています。」と言った感じで、誇りを持って話す人事だったどうでしょうか?
※キーポイントだけ抜き出しています(本来はもう少し具体的なエピソードを添えます)
そして、この問題は「面接受け」などの表面的なことでは無く、もっと本質的で重要な組織の在り方を示しています。
「手段」しか語れない人事や既存社員がいる組織は、「目的」が与えられないまま「手段」だけ指示される組織の可能性が高いです。
こういった会社に就職すると、自分のしている作業のゴールが見えにくくなり「意味がない」「無駄」といった感情が沸き起こること、さらに「手段」を変えようと思って提案しても「何もわからないのに口出しするな」と言われてしまう可能性が高く、やる気が激減し離職意識が高まります。
逆に「目的」が語られる会社は、普段の業務は「目的」を達成するための「手段」として与えられるため、「目的」を達成するために更に良い「手段」の提案が通りやすい土壌があります。
※勘違いしてはいけないのは、上司からすべての情報が伝えられていないので、提案が通るとは限らないことと、あくまでも「手段」に対する提案であって、「目的」に対する提案ができるわけではないことに注意してください。
この場合、「目的」に合うかどうかが大事になってきますので、同じ「目的」に向かえる人材が残り易い傾向にあります(そのため、入社して合わない場合はとことん合わない可能性が高いです)。
今回は、「朝礼で企業理念を唱和する」ことについて書きましたが、その組織で制定されているルールや不文律は必ず「目的」が最初にあり、それを成すために「手段」として目に見える行動指針としてルールや不文律があるにすぎません。
つまり、面接で聞くべき最重要事項とは、面接官が話す内容の「目的」を聞くことです。
例えば、面接で「当社は、業後にアルコールが無料で飲めます」と言われたら、「へ~凄い!!ただで飲めるならこの会社に行こう」と思ったり、「家族や友人も誘えますか?」と聞くのではなく「何故、業後にアルコールが無料で飲める制度を導入したのですか?導入した「目的」と、導入したことで解決したい「課題」は何ですか?」と聞いてみると、その返答次第で、どれくらい「目的」が共有されているのか、自分が同じ「課題」を解決するときに、同じ「手段」を用いるかなどの親和性を計ることが可能となります。
人の役に立つ仕事とは
就活生の多くは「人の役に立つ仕事」をしたいと言います。基本的に世の中に役に立たない仕事は存在しないのですから、どこでも就職すればいいだけの話ですがそう簡単な話ではありません。実際には、「人の役に立つ仕事はしたいけど、どこでも良い訳では無い…が、何が良いかわからない」状態(自己分析が足りていない状態)となっています。
「(人の役に立つ)仕事」とは、「ありがとう」という対価をもらえる仕事と書きました。
ですので「人の役に立つ仕事」で悩んでいるときは「誰に、どんなことをして「ありがとう」と言われたいか」を考えてみましょう。
「企業理念」には「誰から、「ありがとう」と言われることで市場経済の中で価値を発揮するか」が現れています。そして、そのためには「社員はどうあるべきか」が示されています。
※正確には「企業理念」ではなく「MVV」に分解されます。
ですので、自分が「誰」に対して「何」をして「ありがとう」と言われたいのか、そのためには普段「どういう行動(仕事)」をしたいのかを考え、それが「企業理念(MVV)」とどれくらい一致するのかを、企業ホームページや企業説明会、面接時やOB訪問などで確認しましょう。
重要なのは「何をするか」ではなく、「何のためにするか」ですので、このことを忘れないようにすると入社後のミスマッチが少なくなります。