雇用形態と評価とのジレンマ

Story.9

雇用形態で違う業務の範囲

記事を読んでくださっている皆さまはどの様な雇用形態で働いているでしょうか?
無期雇用(正社員)、有期雇用(派遣社員、契約社員、パートタイマー)、アルバイト、様々な雇用形態があります。

そして、その雇用形態に応じて「職務の範囲」が変わるのを明確に区別できている方はどれくらいいるでしょうか?

今回は、雇用形態の違いと、それに伴う職務の範囲、もう少ししっかりと伝えるならば責任の範囲、そして評価とのジレンマを書いていきます。

無期雇用(正社員)

正社員の職務の範囲は、基本的には雇用契約を結んでいる組織全般になります。開発部門で入社しても人事異動で営業部門に異動になることもあるのはわかると思います。

しかし、相談内容を伺っていると正社員で働くというのはどういうことか理解できていない方が大勢います。

とはいえ、「開発部門で入社したのに営業部門に異動になった、これは私の仕事ではない」と言う方はほぼいません(希望しない異動で退職するかどうか悩む方はいます)。

ここでいう、正社員で働くことが理解できていないというのは、「開発で入ったのに、来客対応(電話の一次受け)をさせられる、これは総務の仕事だから自分の仕事ではない、会社がおかしいから辞める」といったことを口にする方です。

これが何故正社員で働くということが理解できていないかを伝えるためには、責任の範囲を理解しなければなりません。

仕事には大別すると2種類の仕事があります。
  • 現在の課題を解決する仕事
  • 会社を維持存続、そして成長させるためのあらゆる仕事

正社員はこの2つの両方が仕事になります。
雇用契約書に書かれているのは「現在の課題を解決する仕事」ですが、会社を維持存続成長させる職務は記載されておらず、業務命令、上長からの指示と言う形で自分の仕事になります。

つまり職務として指示が出た時点であなたの仕事になるのですが、どうも自分で勝手に業務の範囲を決めている方が多い気がします。
※これくらいならまだかわいいですが「(ローテーションで)共有部分のお手洗いの掃除をするために就職したわけでは無い」などをあたかも自分が正しいかのように訴えてくる非常に残念な方もいます。

正社員は、「与えられた職務をすればいい」という働き方ではありません。会社を存続させるために自身の成長を促されますし、職場環境をよくすることも求められます。それは、諸先輩方が維持し継続してきた組織を自分たちの代で途切れさせないようにバトンを受け、さらにバトンを受け渡すことが求められています。

ですので、正社員と言うのは「しなくていい仕事なんて何一つ無い」のです。専門性を持って仕事をした方がいいので部署やスキルによって「主たる業務」が決まっているだけです。

どこの職場にも「これは自分の(うちの部署の)仕事では無いから、そっちの部署がするまで対応できない」と口にする残念な方いますが、これは間違いです。
効率やスキルの関係上、他部署が対応した方がいい仕事かもしれませんが、極論を言えば企業が市場経済に価値を生み出すことができれば誰が仕事してもいいのです。
「他の部署ができないから自分もしない、だから市場へのアプローチが遅れてもいい、遅れたのは他部署のせいで自分には責任が無い」なんて思えるのは、視座の低い残念な社員です。
仕事は自分の思った通りには進まないし、ままならないことが横行しています。不条理の連続です。だからこそ大切なのは「自分の(部署の)仕事かどうか」ではなく、この「する」「しない」の判断の結果、市場経済の中でどのようなインパクトを生むのかを考えるマインドになるのです。
その上で、他部署との連携がうまくいかないのであれば、それを是正する仕組みを考えていくことが求められています。
職場は「好き/嫌い」「やりたい/やりたくない」「納得いく/納得いかない」という、個人の感情で行動する場所ではありません。

ひとつひとつは小さくても、積み重なれば市場(顧客)からの信頼を失い、最終的に自分の仕事が無くなる(倒産する)という意識を常に持っておかなければなりません。

有期雇用(派遣社員、契約社員)

逆に派遣社員、契約社員はどうでしょうか?(※記事が長くなるので今回は派遣社員、契約社員にスポットを当てます)
  • 現在の課題を解決する仕事
  • 会社を維持存続、そして成長させるためのあらゆる仕事
この2つのうち雇用契約書に書かれている「現在の課題を解決する仕事」のみが職務の範囲になります。
基本的に、有期雇用社員は現在の課題を解決する人員になります。ですので、即戦力を求められています。

正社員は難しいから派遣(契約)でもと言う方がいますが、正社員と同等、あるいはそれ以上に今ある課題を解決する能力を求められます。
企業としても、即戦力の人員、しかも期間が終わればいなくなる人材に教育するなどと無駄なコストは掛けません。
そのため、無期雇用で働く方は、教育や成長の必要ない誰でもできるような簡単な仕事(報酬が安い)か、プロフェッショナル人材として高い報酬で働くかの二極化の傾向があります。

そして、会社の維持存続や成長を求められていないので、組織の在り方を決定する権限はありません(意見を出してもいいですが、さも自分が正しいというような言い方や無理やり押し通そうとするのは越権行為ですので、そういうことは正社員で勤務している職場で言いましょう)。

有期雇用の相談者で「正社員と扱いが違う」「同じことをしているのに給与が違う」と仰る方がいますが、違って当然です。
無期雇用社員とは、「職務の範囲が同じ」であっても「責任の範囲が違う」からです。

今年の4月から同一労働同一賃金がすべての企業に義務付けられましたが「同一の労働」とは「①職務内容、②職務内容・配置の変更範囲が同じ」とあり、「職務内容とは、業務の内容+責任の程度をいいます。」と注記があります。
参考:厚生労働省同一労働同一賃金特集ページ

この様に「職務範囲が同じ」だけでは「同一労働」と見做されないのです。

評価とのジレンマ

前提条件に色々追加したため前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。

特に無期雇用で働いている方が陥りやすい現象ですので、この記事が気持ちの整理の助けになると嬉しいです。

2つの働き方の違いで陥りやすいのは「職務の範囲」とそれに伴う「評価」です。
はっきり書くと「給与にどう影響するか」です。

正社員はわかりやすいですね。
職務の範囲はその組織に関わる全てですから、業務指示に従わない場合や、不満を言って職場環境を悪化させたりした場合は懲罰の対象、つまり「給与が下がる」ことになります。
指示があった段階であなたの仕事となります。対応して当然ですので、対応することは基本的にプラスにはなりません(プラスに働く場合もあります)、逆に対応しないことはマイナスになります。

では、無期雇用で働いていた場合はどうでしょうか?
期間内は、雇用契約書に書かれている職務以外では評価はされません。もし、雇用契約書に書かれていない職務をしている場合は、次の契約交渉時に職務として追加してもらう必要がありますが、現実的にそこの交渉をされている人は少ないのではないでしょうか。

労務管理がしっかりしている組織だと、契約範囲外の業務はしたくてもさせてくれませんし、どうしても契約範囲外の作業をお願いしないといけない状況になったら「契約の範囲外なので断ってもらってもかまいませんが、○○という状況なので、○時間だけこの作業を手伝っていただけませんか?」などと聞かれます。
※こんな組織ないでしょ?と思うかもしれませんが、実際に存在しています(佐藤体験談)。

この話から、評価とのジレンマにどう繋がるかというかですが、無期雇用だろうが有期雇用だろうが入社時には、「頑張ろう」「自分の価値を示そう」「組織をよくするために持てる力を出そう」と思うものです。
無期雇用の方はそれで全然問題ありません。むしろ退職するまでその意欲を維持できるかどうかが問題になりますが…

問題なのは有期雇用の方で、職務の範囲外であり「しなくてもいいよ」と言われたにも関わらず「それは知っているのでお手伝いします」とか「10分ぐらい大丈夫なので、残業つけないでお手伝いします」という言動をしてしまいがちです。
勿論、それは人として善良で素晴らしい行動だと思いますが、労働契約と考えると大きな落とし穴が待っています。
そういった行動が次回の契約時に反映されればいいのですが、基本的には自分が進んで行っていることであり交渉材料にするのは難しいです。
モチベーションの高い最初の半年や一年はいいですが、自分知識や経験をアウトプットし続ける、毎日10分とはいえ正社員は残業代がつくのに自分には付かないといったことが二年、三年と続くとどうなるでしょうか?

自分はこんなに頑張っているのに評価されない(給与が上がらない)。「ありがとう」という言葉ではなくて給与を上げて欲しい。同じ職務なのに後から入ってきた正社員の方が給与が良い。などと最初のモチベーションが高いころとは違い不満ばかりが出てしまいます。

「評価」が欲しいのは誰しも同じです。
しかし、「評価」の内容が、ずっと同じではないのです。

新しい環境に入った時は「ありがとう」とか「○○さんが居てくれて助かった」などの無形の「評価」が大事です。
何故なら、新しい環境で「自分に居場所がある」「必要とされている」と感じるのは心理的安全のために絶対に必要なことだからです。
しかし、心理的な安全が確保されると、次に認められたいという欲求が出てきます。そして働くうえでの認められる基準は、多くの人が「給与の額」になります。

これは、アブラハム・マズローが自己実現論(欲求5段階説)で示した「人間の欲求」の現れ方そのものです。
最初の職場に居場所を作るために頑張っているのは「社会的欲求」を満たそうとしている段階です。そしてそれが満たされると次の「承認の欲求」を満たしたいと思うようになりますが、働くうえでの承認とは多くの人が「給与の額」ですので、有期雇用では満たすことが難しいのです。
※ちなみに、欲求5段階説と言われていますが、マズローは晩年、「自己実現の欲求」のさらに上に「自己超越の段階」を提唱しているので、個人的には欲求5段階説という言い方はあまり適切ではないと思っています。

この様に、「給与の額」が変わらないことに苛立つのは、あなたが傲慢になったわけではありません。自己実現の欲求の正常な段階を経ているのです。
ですので「最初はこんなこと思わなかったのに」とか「昔は感謝の気持ちだけで嬉しかったのに、今はお金のことを言って自分は嫌な人間になった」などと自分を責めたり、貶めたりする必要はまったくありません。

しかし、有期雇用という働き方は、自己実現の欲求を満たす働き方には成り得にくいのも事実です。

評価に苛立ちを感じるようであれば、一度立ち止まり自分自身のキャリアを考える時期に来ているのではないかと思います。

最後にもう一度書きますね。

あなたは傲慢になっていませんよ。

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